5G無線ネットワーク技術のRIC (RAN Intelligent Controller)を説明します。RICは、無線アクセスネットワーク(RAN)をよりオープンでインテリジェントにする技術です。RICは、AI/ML(人工知能・機械学習)が利用されています。これにより、RICが使われるネットワークは運用が効率化、自動化されます。
RICはモバイルネットワークの分野で今後何かと話題が増えてきます。この記事では、RICのコンセプトやアーキテクチャの概要を理解して、RICの話題を理解しやすくする目的で準備しました。
RICのコンセプト(人工知能・機械学習を標準搭載)
RAN(Radio Access Network)は5Gおよび4Gの無線アクセスネットワークです。RANでは5Gおよび4Gネットワークの無線接続の制御を行います。そのRANの無線リソースの最適化やRAN運用の自動化を行うのがRIC(RAN Intelligent Controller)です。
- [RIC コンセプト]
- Automation of RAN operations
- Intelligent RAN function
- Optimization of RAN processing resources and radio resources
- Programmable software function
- Open interface
- Cloud native architecture
RICはRANの重要なコンポーネントの1つです。RICは、5G RANを構成するRU(無線機)、DU(分散局)、CU(集約局)等のノードおよび装置上のソフトウエアを管理・制御するコントローラーです。RIC自体も複数のコンポーネントから構成されておりソフトウエアにて実装されます。RICのインターフェースはOPEN化されており、標準化されています。このOpen化によりRANの市場には多くの新しいプレーヤーが参入し、マルチベンダー化しています。
RICはAI/ML(人工知能・Machine Learning)の利用が前提とされています。運用の効率化をします。RICによりRANの機能やその運用方法はインテリジェント化します。RICは通信性能や品質のモニタリング、最適化などのインテリジェント機能によって5Gサービスの高度化、運用の効率化をします。
RICの利用が想定されるUse Case
RICの機能は、従来のネットワークのSON(Self-Organized Network)の機能を置き換えるものです。SONは、4Gや3Gのネットワークで設定の自動化や最適化を行っていたネットワークの機能です。また、同時にRICとしてよりインテリジェントな新しいネットワーク機能を実現します。
以下に、代表的なRICのUse Caseを紹介します。以下に記載するRICのUse Case以外にも、RICにより様々な5Gおよび4Gネットワークのサービスや新しい利用方法が数多く想定されています。
RICの機能的なユースケースとその詳細は、以下の記事を参照してください。
パーソナライズされた接続およびユーザ体感(QoE)の向上
RICにより、ユーザ毎(端末やセッション毎)に異なる必要とされる品質の無線接続を提供します。また、RICによりRANの処理リソースや複数アンテナ(MIMO:Multi Input and Multi Output)による無線接続制御(Beamforming等)を最適化します。それによりユーザの体感値(QoE: Quality of Experience)を向上させます。RICはネットワークスライス(仮想化されたネットワーク処理リソースのセット)毎に通信を最適化します。
ネットワークスライス(Network Slice)に関する詳細は以下の記事をご参照下さい。
ネットワーク装置費用および運用件費の削減 (CAPEX とOPEX削減)
RICにより5Gおよび4G Network RANの運用コストが削減されます。Open化により5G Networkは複数の新規プレーヤー(ベンダー)が市場に参入してマルチベンダー化し、5Gおよび4G RANの装置やソフトウエア費用(CAPEX)は下がります。また、RICによる5Gおよび4G RANの運用効率化および自動化により、Network運用費用(OPEX)が下がります。
通信事業者の新しい収益源
RICのインテリテント機能によりSLA(Service Level Agreement)を考慮したRANネットワークスライスを制御できるようになります。それにより、通信事業者はこれまでに無い様々なネットワークサービスを提供できるようになります。通信事業者にとっての新しい収益源を創る事ができます。
O-RAN allianceとは?ONF (Open Netwrok Fondation)とは?
O-RAN allianceが進めるRIC標準化
RICはO-RAN allianceにて標準化が進められています。O-RAN allianceは次世代のRANをより拡張性が高く、よりオープンでインテリジェントにすることを目的に活動している団体です。O-RAN allianceは通信事業者および通信機器ベンダーが参加する団体です。
- [用語集]
- CP: Control Plane
- MAC: Media Access Control
- MANO: Management and Orchestration
- NFVI: Network Function Virtualization Infrastructure
- ONAP: Open Network Automation Platform
- PDCP-C: Packet Data Convergence Protocol – Control Plane
- PDCP-D: Packet Data Convergence Protocol – Data Plane
- O-Cloud: Orchestration and Cloud Platform
- PHY: Physical Layer
- RAT: Radio Access Technology
- RF: Radio Frequency
- RLC: Radio Link Control
- RRC: Radio Resource Control
- SDAP: Service Data Adaptation Protocol
- UP: User Data Plane
NetworkのOpen化の詳細およびORAN allianceの活動の詳細に関しては以下の記事をご参照下さい。
ONFが進めるSD-RANプロジェクト
ONF (Open Networking Foundation)は、SD-RAN(Software Defined Radio Access Network)プロジェクトを創設し、5Gおよび4G RANの展開に向けてオープンソースのソフトウェアプラットフォームとマルチベンダーソリューションの開発を支援しています。このSD-RANプロジェクトは、O-RAN allianceのRICに類似する活動です。
ONFは、非営利の通信事業者(オペレーター)主導のコンソーシアムです。ONFは研究、開発、教育を通じてネットワークインフラストラクチャと通信事業者のビジネスモデルの変革を推進している団体です。
ONF (Open Network Foundation), [official website]
ONFでは、O-RAN allianceのNear-RT RICに対応する機能をμONOS RICとしています。μONOS RICはクラウドネイティブにて設計(コンテナ技術をベースに設計)されており、インテリジェントなRAN制御に必要なリアルタイム機能と同時に、スケーラビリティ(通信量に合わせた拡張や縮小)、高いパフォーマンスをサポートします。
ONF以外にもTIP (Telecom Infrastructure Project)のRIA (RAN intelligent and Automation) subgroupがxAPPおよびrAPP開発(RICのユースケースの検討)、テストとデプロイメントなどに関して活動を行っています。(詳細は以下のドキュメントを参照)
[TIP, Near-real-time RIC: enabling AI/ML-driven extreme automation and granular control of Open RAN, Link]
RICのアーキテクチャー概要
RICは、Near-RT-RIC (リアルタイムRIC)と、Non-RT-RIC(非リアルタイムRIC)に分かれます。(下図参照)
Non-RT-RIC(非リアルタイムRIC)とは?
Non-RT RIC(Non Real-time RIC)は、Centralized RIC(C-SON: Centerlized SON)とも言われます。1個のNon-RT RICにて数1000程度の無線セルをコントロールします。Non-RT RIC はOSS (Operation Support System)などの中央のクラウド局と一緒もしくは、その近くに配置されます。
Non-RT RIC(Non Realtime RIC)は、RANの制御にかかわるポリシーの生成や通知、Near-RT RICへの情報転送を行います。Non-RT RICは、RANの管理やオーケストレーションを行うSMO(Service Management and Orchestration)の内部に位置します。
Non-RT RICで生成されるポリシーは、RANで提供されるサービス品質(QoS: Quality of Service)やユーザ体感値(QoE)などの形で表現されます。このポリシーは、基地局や端末から集められた情報を元に分析され生成されます。
Non-RT RICは、各種情報の分析やポリシーを生成するためにrAPP(Non-RT RIC Application)と呼ばれるアプリケーションと、複数のrAPPを同時に動作させるNon-RT RICプラットフォームに分かれます。rAPPとNon-RT RICプラットフォームとの間は、O-RAN allianceが仕様化するR1インターフェースによって接続します。
Near-RT-RIC (リアルタイムRIC)とは?
Near-RT RIC(Near Realtime RIC)は、Distributed RIC(D-SON: Distributed-SON)とも言われます。Near-RT RIC(Near Realtime RIC)は、1000以下程度の無線セルをカバーします。Near-RT RIC機能はCUの近くに設置されます。場合により、1個のNear-RT RIC機能で複数のCUをカバーします。
Near-RT RIC(Near Realtime RIC)は、RANノード(RU, CU, DU)の近くに位置し、RANノードやRAN処理リソースや無線リソースなどの制御を行います。
Near-RT RICは、マイクロサービスベースの専用アプリケーションxAPP(Near Realtime RIC Application)と、複数のxAPPを同時に動作させるNear-RT RICプラットフォーム部分に分かれます。Near-RT RICは、xAPPの専用アプリケーションを通じて、Non-RT RICからポリシーガイダンス(サービス品質:QoSやユーザ体感値:QoE)を受け取り、Non-RT RICにポリシー・フィードバックを提供します。
rAPPとNon-RT RIC Platformの関係、およびxAPPとNear-RT RIC Platfromの関係を下図に示します。
Non-Realtime RICとNear-Realtime RICの処理時間の違い
RICでは、階層毎にRICの処理に要求される制御処理の時間は異なります。RU, DU, CUのRANノードに近いほど許容される処理時間は短くなります。
RIC処理ループの階層は上から、『Non-RT RIC層(SMO)』、『Near-RT RIC層』、および『RU、DU、CU RANノード層 (O-Could)』と別れます。上階層から下の階層へ行くほどRIC処理ループにて許容される処理時間は短くなります。(下図参照)
DUのプロトコル処理は、10ナノ秒程度の処理遅延しか許容されないリアルタイムに近い処理が行われています。DUでは、リアルタイムに近い処理が必要とされるプロトコル処理が行われています。DUで行われるLayer 2のプロトコル処理が許容される遅延は厳しく10ナノ秒程度の処理遅延しか許容されません。
RICの取り扱うデータ量とデータ範囲
RICでは、Non-RT RICとNear-RT RICで扱うデータの範囲やデータ量が異なります。これはRICで許容される処理時間に関係しています。
Non-RT RICの階層では、RIC処理ループにおいて1秒以上の長い処理時間が許容されます。Non RT RICではNear-RT RICよりも扱うデータの範囲が広く、処理対応となるデータが多くなります。
一方、Near RT RICの階層では、RIC処理ループにおいて10ミリ秒~1秒の処理時間しか許容されません。これは、Near RT RICは処理時間の要求が更に厳しいCUやDUのノードで行われるプロトコル処理を考慮する必要があるためです。また、Near-RT RICではNon-RT RICと比較して扱うデータ範囲は狭く、処理および分析が必要なデータは限られます。
まとめ
5Gおよび4G無線ネットワーク技術のRICを説明しました。RICは、無線アクセスネットワーク(RAN)をオープンでインテリジェントにする技術です。RICによりRANのインターフェースがオープン化されマルチベンダー化されています。また、RICによりRANはインテリジェント化され、運用が効率化され自動化されます。
RICの技術は、RAN機能をソフトウエア化するVirtual-RAN(VRAN)およびインターフェースや技術をオープンにするOpen-RAN(ORAN)と深く関わっています。RICの技術は、これらのVRANやORANが前提となっています。VRANおよびORANに関して詳細は以下の記事をご確認下さい。
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