5Gで実現される、ネットワークスライシング(Network Slicing)の概要をまとめます。ネットワークスライシングは、3GPP標準仕様Release-15で初版の技術仕様が策定されました。ネットワークスライシングは、単一の物理ネットワークを、異なるサービス要求条件に応じた複数の論理的ネットワーク(スライス)に分けて利用する仮想化技術の事です。
ネットワークスライシング(Network Slicing)のコンセプト
5G Networkでは、スマホだけでなくあらゆるものが5G Networkに繋がることを前提としています。5G Networkでは、高速・大容量、高信頼、低遅延など、様々な異なる要求条件に対応する必要があります。それらの要求に対応するための機能が、ネットワークスライシング(Network Slicing)です。
ネットワークスライシングは、単一の物理ネットワークを異なるサービス要求条件に応じた複数の論理的ネットワーク(スライス)に分けて利用する技術です。
ネットワークスライシング(Network Slicing)のコンセプトを下図に示します。業界団体GSMA(GSM Association)の資料から参照しています。スライス毎に異なる要求を満たす論理的なネットワーク(スライス)が構成され、それぞれのスライスは異なる通信帯域や品質の異なるサービスに使われます。
An Introduction to Network Slicing, GSMA, [PDF file]
ネットワークスライシング(Network Slicing)のArchitecture概要
物理Networkと論理Network
Network帯域やコンピューティングリソースを動的に割り当てる論理的なNetworkをネットワークスライスと言います。ネットワークスライスは、Networkを構成する物理的な装置とは分けて考えられます。(下図参照)
RAN、Transport Network、Core Networkのドメイン毎に必要なリソースが、スライス毎に割り当てられます。End to Endのネットワークスライスは、5G NetworkのRAN、Transport Network、Core Networkのドメイン毎にアサインされたリソースの事を言います。
S-NSSAIスライス識別子
S-NSSAI(Single-Network Slice Selection Assistance Information)と呼ばれる識別子により個別のスライスが形成されます。S-NSSAIは、End to Endのネットワークスライシングを実現するために必要な識別子です。端末(UE)、RAN、Core Networkの各ドメインでS-NSSAIを持ち回ることができ、特定のネットワークスライスを判別するための識別子です。国際標準化団体の3GPPにより規定されました。
サービスタイプ(SST: Slice and Service Type)としてはeMBB(高速・大容量)、mIoT(多数接続、省電力、低コスト)、URLLC(低遅延、高信頼)が定義されています。
単一UEあたりに複数のS-NSSAIを持つことができます。UEは、接続するサービス毎にSSTおよびSDの値を元に、対応するトランスポート・スライスにマップ(対応付け)されます。
End to Endネットワークスライシング(Network Slicing) Architecture
Overall Network Slicing Architecture
End to Endのネットワークスライシング(Network Slicing)のArchitecture全体図を下に示します。公開されているSamsungのTechnical White Paperより参照しています。
CNおよびRANは3GPP標準で定義されたアーキテクチャに基づいてスライシング関連機能が提供されます。TN(Transport Network)では、ネットワークスライシング(Network Slicing)機能およびコーディネーション機能は3GPPで定義されたものと、3GPP以外のNetwork要素で提供されます。
Network Slicing, April 2020, Samsung, Technical White Paper, [Web Site]
Glossary in above figure
- NSSMF: Network Slice Subnet Management Function
- EMS: element management systems
- VNFM: Virtual Network Function Management
- CISM: Container Infrastructure Service Management (K8s)
- Near-RT RIC: Near Real Time RAN intelligent controller
- DU: Distributed Unit
- CU-UP: Central Unit User-Plane
- CU-CP: Central Unit Control-Plane
- UPF: User Plane Function
- DN: Data Network
- NR RU: New Radio Remote Unit
End to Endのサービスオーケストレーションは、ネットワークスライスの容量、認証、SLA(Service Level Agreement)、およびヘルスモニタリングを監視、管理します。End to Endのスライスは、各ベアラパスDU、CU-UP、UPF、およびDNを通してSLAを満たすように制御されます。
以下にドメインリソースオーケストレーション毎に説明します。各ドメインリソースオーケストレーションは、RAN、TN、Coreのドメインに分かれます。各ドメインリソースオーケストレーションは、既存の技術および製品(ETSI NFV-MANO, Near-Real-Time RIC, Non-Real-time RIC, NSSMF, etc.)に実装されます。
RAN Network Slicing
RANの場合、O-RAN allianceにより定義されたRIC(RAN Intelligent Controller)が、ポリシー適用とリアルタイム制御のためのコンポーネントとして提供されます。RICはAI/ML(Artificial intelligence/Machine Learning)ベースのインテリジェント機能です。Near-RT RIC(Near Real-time RIC)が、RANデータのリアルタイムの監視と制御に基づいてスライスの最適化を行います。
RICに関して詳しくは以下の記事をご参照下さい。
DU (Distributed Unit)、CU-CP (Central Unit Control-Plane)、AMF(Access and Mobility Management Function)は通常、いくつかのネットワークスライスで共有されます。一方、CU-UP(Central Unit User-Plane)、SMF(Session Management Function)、UPT(User-Plane Function)は通常、特定のネットワークスライス専用として動作します。
Transport Network Slicing
トランスポートネットワーク(TN: Transport Network)の場合、Front-haul、Mid-haul、Back-haulの異なるトランスポートネットワーク部分毎にスライシング機能を提供します。 TNオーケストレーションは、トランスポートドメインをスライスするためのリソースを管理/制御し、マルチレイヤーパスの計算と最適化を行います。また、IPドメインや光ドメイン両方のドメイン間でNetwork動作を調整します。
Core Network Slicing
5G Coreの場合、様々なユーザーに特定のサービスを提供するためCore Network機能をスライスとして提供します。一部のコア・ネットワーク機能は複数のスライス間で共有されます。また、別のコア・ネットワーク機能は特定のスライスのサービスに対してのみ利用されます。
UDM(Unified Data Management)とNSSF (Network Slice Selection Function)は、全てのネットワークスライスに共有されます。一方、NRF (Network Repository Function)およびPCF(Policy Control function)は、共通またはネットワークスライス固有としても動作させる事ができます。
まとめ
5Gで実現される、ネットワークスライシング(Network Slicing)の概要をまとめました。ネットワークスライシング(Network Slicing)は、5Gにおいて柔軟に様々な要求に対応するための機能です。
ネットワークスライシングの実現には、5G Networkのソフトウエア化(仮想化)や、クラウドネイティブ化が重要となります。5Gの仮想化、クラウドネイティブ化に関して詳しくは以下の記事を参照下さい。
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