5G無線ネットワーク自動化のRIC(RAN Intelligent Controller)ユースケースとは?SON(Self-Organaized Network)との関係

AI/ML based RAN automation RIC use case - Eye catch 5G Tech
[Reference] Unsplash, Robina Weermeijer, https://unsplash.com/photos/IHfOpAzzjHM

AI/MLを利用するRANの運用自動化機能であるRIC(RAN Intelligent Controller)は様々なユースケースが想定されています。この記事では、5G/4G無線ネットワーク(RAN: Radio Access Network)の運用自動化および、最適化機能であるRICのユースケースについて説明します。

また、既存RANの運用、自動化機能であるSON(Self-Organized Network)とRICの関係についても説明します。

RIC(RAN Intelligent Controller)とは

RAN(Radio Access Network)は5G, 4G, 3Gなどの無線アクセスネットワークです。RANは端末(スマホなど)の無線接続を制御しています。また、限られたRAN無線リソースの最適化やRAN運用の自動化を行うのがRIC(RAN Intelligent Controller)です。

5G, 4G, 3Gなどの無線モバイルネットワークはとても限られた無線帯域や限られたコンピューター処理リソースを利用して、膨大な無線通信を行っています。RICでは、限られた無線帯域やコンピューター処理リソースを効率的に利用するためAI/MLベースのソフトウエアが利用されています。

図、 RIC (RAN Intelligent Controller)アーキテクチャ概要

RICのコンセプトは、ソフトウエア化されたOPENなシステムが前提とされています。更に詳細のRICのコンセプトおよび、アーキテクチャに関しては以下の記事を参照ください。

3種類のRIC機能タイプ

RICの機能は、大きく以下の3種類に分類する事ができます(下図参照)。RICはRAN運用の自動化、ネットワークの最適化を目的としたソフトウエア機能として標準化団体(O-RAN alliance, Telecom Infra Project, ONFなど)にて定義されています。また、RICではAI/ML(人工知能および機械学習)が利用される事が前提となっています。

実際の機能は、RAN運用の自動化、ネットワークの最適化に関連する様々な異なる種類の機能がRICとして実装される事になります。既存のSONとRICとの関係や、既存のRAN(TRAN)とRICの関係を下図で示します。

図、3種類のRIC機能タイプ

ORAN(Open-RAN)ベースのAI/MLを利用したRAN運用の自動化、最適化機能

この機能タイプのRIC機能は、AI/MLベースのRAN運用の自動化、最適化機能です。ORAN allianceが進めるRANの仕様のOpen化および、ソフトウエア機能を前提とするRICによる自動化機能がこの機能タイプに分類されます。

SMO(Service Management and Orchestrator)の一部としてNon-RT-RIC(None Real-Time RIC)が定義されています。また、RANのベースバンドユニットに近い部分で動作するRICとしてNear-RT-RIC(Near Real-Time RIC)が定義されています。Non-RT-RICとNear-RT-RICは互いに連携して動作します。

既存SONの自動化、最適化機能をRICに実装

既存のSON機能が、RICとして実装され運用される機能が、この機能カテゴリに含まれます。

ほとんどのモバイル通信オペレーターは既存のネットワークを運用しています。従来の4G/3Gネットワークの運用および最適化機能はSONとして既に運用されています。SONはCSON (Centralized SON)DSON(Distributed SON)に分かれます。SONはオペレーターが独自に開発し、メンテナンス、運用しているソフトウエアシステムも多く含まれます。

図、既存のCSON、DSON機能
  • [用語集]
  • SMO: Service Management and Orchestration
  • Non-RT-RIC: None Real-time RAN Intelligent Controller
  • Near-RT-RIC: Near Real-time RAN Intelligent Controller
  • SON: Self-Organized Network
  • CSON: Centralized self-Organized network
  • DSON: Distributed self-Organoid network
  • EMS: Element Management System
  • TRAN: Traditional Radio Access Network (Used for VRAN)

オペレーターが独自に開発した4G/3G 既存RAN(TRAN)のSON機能と、AI/MLベースの新しいRIC(SMO)の機能の同時運用は、大部分のオペレーターにとって共通の問題となる事が想定されています。また、SON機能からRIC機能への機能のマイグレーションも大部分のオペレーターにとって共通の問題となる事が想定されています。

既存RAN(TRAN)機能の一部をRICに実装

従来のRAN(TRAN: Traditional RAN)の機能の一部がRICの機能として実装されるケースが、この機能タイプに分類されます。特に、RANのトラフィック・スケジューリング機能の一部がNear-RT-RICの機能として実装されるケースがこの機能タイプに分類されます。

RANのオープン化の流れに伴い、従来のRAN(TRAN)では5G/4G RANのベースバンド・ユニット(BBU)にて処理されていたベースバンド処理機能の一部が、Near-RT-RICの機能として実装される事が想定されています。AI/MLを利用してより効率的なベースバンド処理のトラフィック・スケジューリング処理を実現する事が目的です。

  • [RICに実装される既存RAN機能]
  • DSS (Dynamic Spectrum Sharing):同一無線周波数帯域を5Gと4Gで使う技術(無線のリソース単位で5Gと4Gで使い分ける機能)
  • ICIC (Inter-Cell interference coordination)、およびeICIC (Enhanced Inter-Cell interference coordination) framework:マクロ無線基地局とスモール無線基地局の動機を利用した、端末向けの電波干渉の低減や通信速度の改善の技術。
  • CA (Carrier Aggregation):異なる複数の無線周波数帯域を、束ねて同時に利用し通信速度をアップするための技術
  • Massive-MIMO beam optimization: 端末に向けたビームフォーミングおよびMassive-MIMOの複数アンテナ処理の最適化機能、電波干渉の低減や送信電力を低くする効果が有る技術

8カテゴリのRICユースケース分類

RICの機能には様々なRANの運用自動化機能、最適化機能が含まれます。RICの機能をユースケースの観点から以下のカテゴリに分類します。下表は、RICのユースケースをカテゴリ毎に分類したものです。

RICはRANの新しいAI/MLベースの運用自動化および最適化機能です。また、RICは従来のRAN(TRAN)の自動化機能であるSONに置き換わるものです。

また更に、RICはRAN機能の一部が実装されます。RANのトラフィックを処理するプロトコル処理のスケジューリング機能の一部がNear-RT RICとして実装され運用されます。

表、RIC Use Case カテゴリー
  • [用語集]
  • QoS: Quality of Service
  • QoE: Quality of Experience
  • Massive-MIMO: Massive – Multi Input Multi Output (Wireless communication multiple antenna technology)
  • SAL: Service Level Agreement

RANトラフィックのハンドリングおよび処理負荷の分散

このUse Caseカテゴリの機能は、RANを流れるトラフィック処理の負荷を分散またはバランシングをします。ネットワーク側の状況や、端末(スマホなどのネットワークに接続するもの)のパフォーマンスに応じてRAN負荷分散またはバランシングをします。

RANのベースバンド処理を行う装置間での処理負荷の分散や、プロセッサー間での処理負荷の分散が行われます。AI/MLを活用して、RICがネットワーク側の状況や、端末のパフォーマンスを積極的に最適化する機能です。

ベースバンド処理装置谷、ベースバンド処理を行う半導体チップ単位、無線セル単位などの負荷分散またはバランシングが想定される機能です。

  • [具体的な機能例]
  • Intelligent Radio Call Coverage and Capacity Optimization
  • Accurate Real-Time UE Location Data Tracing
  • Predictive Load Balancing (Cell, RU level)
  • User Level Predictive Load Balancing
  • Mobility Load Balancing (Inter-Frequency and Inter-RAT Mobility Load Balancing)

無線ハンドオーバーおよび無線干渉制御の最適化

このUse Caseカテゴリの機能はRANの無線接続の干渉のコントロールが行われます。この機能では複数異なる基地局(ベースバンド処理装置)において同時に無線接続性をコントロールする必要があります。そのため、異なる基地局(ベースバンド処理装置)同士を連携させる処理が行われます。

無線接続の干渉を減らす事で、端末の通信時に限られた無線リソースを効率的に利用できます。無線干渉を減らすことで、RANのセル単位の収容できるユーザー数(キャパシティー)を増やし、ユーザーの無線接続性を改善します。それにより、RANの通信の品質(QoS: Quality of Service)を改善します。

  • [具体的な機能例]
  • Inter-Frequency Handover Optimization
  • Inter-RAT (5G NR – 4G LTE, 4G LTE – 3G) Handover Optimization
  • V2X (Vehicle-to-anything) Handover Optimization (UE-to-UE slide-link Handover Optimization)
  • Interference Mitigation: Uplink Channel Estimation
  • Interference Mitigation: ICIC and eICIC Framework
  • Intelligent Secondary Cell Selection for CA (carrier aggregation)

QoSおよびQoEベースの無線リソース消費の最適化

QoSの分析および予測により、RANの無線接続における無線リソース消費およびRAN装置の処理リソースの消費を効率化します。無線リソースの消費を効率化する事で、無線ネットワークの通信品質が向上します。それによりRANの接続性やサービス品質(QoS)が改善し、結果的にユーザーの体感値(QoE)が改善します。

QoSの元となるデーターは、RANのUser Traffic Data、QoS測定値(RANのNetworkカウンターをベースとするKPI/KQI値)、端末からネットワークへ送信されるNetwork Measurement Reportメッセージなどの複数の異なるデーターです。このuser caseカテゴリの機能はそれらのデーターを総合的にAI/MLを利用して分析します。QoSの分析結果を元に、RANの処理リソース(無線リソースおよび計算リソース)をどのようにユーザーに割り当てるかを決定します。

  • [具体的な機能例]
  • QoS Based Radio Resource Optimization
  • Network KPI Anomalies Detection
  • Network Fault Prediction and Optimization
  • VoLTE and VoNR Service Quality Optimization
  • Real-Time Video Traffic Optimization (include UAV)
  • Subscriber QoS Optimization
  • [用語集]
  • VoLTE: Voce Over LTE
  • VoNR: Voce Over NR
  • UAV: Unmanned Aerial Vehicle
  • KPI: (Network) Key Perfomance Indicator
  • KQI: (Network) Key Quality Indicator

Massive-MIMO最適化

Massive-MIMOは、電波伝搬の空間多重化技術です。Massive-MIMOにより無線通信速度がUPし、通信品質がUPします。Massive-MIMOは複数のアンテナを使う、複数アンテナの技術です。

RANの無線通信のQoSおよびQoEを改善する目的で、Massive-MIMOの処理の最適化が行われます。Massive-MIMO処理の最適化により、利用する無線周波数の効率化(Spectral Efficiently)と無線通信の省電力化(Energy Efficiency)がされます。

従来のRAN(TRAN)では、Massive-MIMOのアンテナの処理はRANのLayer-1(物理層)のプロトコル処理にて行われます。RICが導入されれば、Near-RT-RICがMassive-MIMOの最適化の処理を行います。

図、Massive-MIMO

上記図は、Samsungの白書から参照しています。

[Samsung White Paper, Massive-MIMO, Samsung offical site]

RANスライシングおよびスライスSLAコントロール

ネットワークスライシング技術は5G SAの導入により、商用化された技術です。ネットワークスライシングのRANドメインの機能をRANスライシングと言います。RANスライス毎のSLA(Service Level Agreement)に応じて、RICがRANスライスの通信品質や通信帯域をコントロールします。

RANは通信の状態により利用できる処理リソース(コンピューティングリソースおよび、無線リソース)が変化します。RICがRANの処理リソースを把握しながら、RANスライス毎のSLAをダイナミックにコントロールします。

図、ネットワーク・スライシング概要

ネットワークスライシングに関して詳細は以下のブログを参照してください。

RANインフラ共有 (MORAN: Multi Operator RAN)

RANインフラ共有は、複数のオペレーターが単一のRANのリソース(コンピューティングリソースおよび無線リソース)を共有します。人口が少ないエリアや基地局の設置が非常に困難なエリアで利用される技術です。

RANインフラ共有は、RAN仮想化が必要です。RANを仮想化する事で、1台のRAN装置を、複数のオペレーターで共有します。RICによりRANのコンピューティングリソースと無線リソース(スペクトラム)を複数のオペレーターで利用可能にします。

RANインフ共有は、サイトシェアリングとも言われます。MORAN(Multiple Operator Radio Access Network)とも言われています。下の図は、公開されている情報から参照しています。

[Training: Introduction to Mobile Technology, Intermediate: Mobile Network Sharing, link]

図、RANインフラ共有 (MORAN: Multi Operator RAN)

RAN省電力化

FIG, RAN Energy Saving

RICにより、RANの消費電力を抑えます。RICがハードウエアデバイスレベルでの省電力化および、無線送信電力の省電力化を行います。

Non-RT-RICによるRANの省電力化は、RANの全体的なマネージメントの観点からRANの消費電力が最適化されます。Near-RT-RICは、RANのベースバンド処理に近い部分から消費電力の最適化が行われます。RANの無線リソースの最適化の観点から、省電力化が行われます。Massive-MIMO最適化は省電力化の観点で、このカテゴリに非常に近い位置づけとなります。

無線送信電力の省電力化は、Massive-MIMO最適化とも関係します。

その他のユースケース

FIG, Other RIC Use case Case

RICには、様々なRANの運用自動化および最適化機能が含まれます。ここまでのユースケースカテゴリに含まれないRICのユースケースが沢山あります。

オペレーターが特殊目的で開発し運用するRICはこのカテゴリに分類されます。

  • [具体的な機能例]
  • UAV (Unmanned Aerial Vehicle) radio resource allocation
  • Signaling Strome Protection
  • PCI (physical cell identify) Conflict and Collison Detection
  • etc.

まとめ

RANの運用自動化機能であるRICは様々なユースケースを説明し整理しました。また、既存RANの運用、自動化機能であるSON(Self-Organized Network)とRICの関係についても説明しました。

RICはRANの仮想化およびインターフェースOPNE化と深く関係しています。VRAN(仮想RAN)およびORAN(オープンRAN)に関して詳細は以下の記事を参照してください。

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